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2025.09.22

額縁・額装で大切なグレージングの選び方。アートの表情を豊かに変える透明なアクリル・ガラスの窓

朝、カーテンを開けると、部屋いっぱいに広がるやわらかな光。壁にかけた額縁にもその光が届き、透明な板の向こうで、絵や写真もまた1日の始まりを迎えます。

何気ない日常の中で、ふと視線を向けると心がほどける。そんな毎日をいつまで続けられるのかは、額縁の表面材によって左右されるかもしれません。

額縁に使われるアクリル板やガラス板は、作品を汚れや衝撃から守り、なおかつ見え方にまで関わる重要なパーツ。透明感やUVカット性能など、どれを選ぶかによって作品の表情は大きく変わってきます。

この記事では、額縁の表面に使われるアクリル板の種類やガラスとの違い、選び方のヒントについてご紹介します。

額縁・額装のグレージング早見表

素材価格重さ視認性作品安全性その他性能備考
視認性総合評価透過率
(低いと作品が暗く見える)
反射率
(高いと反射が見やすい)
反射光の色
(反射が映った際の色)
透過光の色
(作品を直視して余計な色がつくか)
板のたわみ紫外線カット率
(高いほど作品を守れる)
割れにくさ
(割れた時の危険度)
硬度
(傷のつきにくさ)
帯電防止
(ほこりのつきにくさ等)
PETシートとても安いとても軽い×85%不明無色非常に暗い×30〜80%×安価なポスター額縁などで使用されている。薄くて軽く安価な点がメリットだが、他と比較すると視認性が悪い。
ガラス普通重い93%7%無色無色30%海外の既製品の額縁によく使用されている。安全性の面から、国内の額縁のほとんどがアクリル板に代わっている。
アクリル普通軽い93%7%無色無色80%通常のアクリル板。UV吸収剤が入っており、多少のUVカット効果が期待できる。製造方法や板の厚みの選択によってもメリット・デメリットが異なる。
UVカットアクリルやや高い軽い93%7%無色無色97%通常のアクリル板にさらにUV吸収剤を入れ、UVカット率を高めた製品。過去は色味が黄色く変わる傾向があったが、現在は通常と変わりなし。
低反射ガラスやや高い重い98%2%若干緑色非常にクリア70%ガラス板にARコーティングを施し、表面反射を極力抑えた製品。小型の額装の場合、ガラス特有のデメリットも気にする必要がなく、他の低反射製品と比べて安価なため最初の1枚におすすめ。
AR低反射アクリル高い軽い97%3%若干黄色非常にクリア97%アクリル板へのARコーティングにより、表面反射を極力抑制。撥水撥油、ハードコーティングも施されていてお手入れもしやすい。
モスマイト低反射アクリルとても高い軽い99.5%0.3%ほぼ無色非常にクリア99%特許技術モスアイ構造により、通常のAR低反射アクリルを凌駕するほどの可視光全域に対する低反射性を実現。
ミュージアム品質低反射アクリル非常に高い軽い98%2%若干緑色非常にクリア99%低反射アクリル板に、静電気防止・耐傷・耐汚コーティングなどさまざまな機能を追加。各国の一流美術館や博物館で使われている。

スタンダードな額装では、アクリルかガラスのいずれかを選ぶことになります。飾る環境や作品の保存性を考慮する場合は、UVカット機能のあるアクリルを選ぶことも可能です。

さらに作品の視認性を高めたい方は、低反射アクリルも視野に入れるとよいでしょう。額縁専門店 ファブリでは、比較的取り入れやすい低反射アクリルから美術館グレードのものまで取り揃えています。

ちなみに、あえてアクリルやガラスでカバーをすることなく額装を行うこともあります。グレージングなしでも大きな問題が出にくい作品や展示環境の場合、反射を気にせず作品を直接眺められるという利点があります。

さらに詳しくグレージングの種類やそれぞれの特徴を知りたい方は、ぜひ続きをご覧ください。

通常アクリルから最高級アクリルまで並べてみると、映り込みの違いが一目瞭然
通常アクリルの映り込み

額縁・額装のグレージングの種類と特徴

作品をカバーするアクリルやガラス板は、作品への目線を最初に受け止め、どのように眺めるかすらも決めてしまう重要な部分です。こだわればこだわるほど、額縁そのもの以上に費用を大きく左右することもあります。 

アクリル板とガラス板は一見どちらも同じように透明ですが、実際に手に取ってみるとその違いを感じることができます。また、IKEAやニトリなどの家具量販店で額縁を購入した際に付属している「PETシート」という素材もあります。

ガラス板のメリット・デメリット

ガラス板はアクリルが普及する以前に広く使われていたグレージングですが、耐摩耗性に優れていて傷つきにくいのが特徴です。静電気がほとんど発生しないため埃が付着することも少なく、お掃除やお手入れは比較的簡単に行うことができるでしょう。

最大の弱点は、やはり割れやすさです。持ち運びや掛け替えなど日常的に扱うことがある場合は、大きなリスクになります。

機能面はもちろん大切ですが、「クラシックな額縁やアンティーク調の作品にはガラス板を合わせたい」というお客様もいらっしゃいます。最後はその作品が内包する文脈や作品に対する想いによって素材を選ぶのもよいでしょう。海外の既製品の額縁には今でもガラス板がよく使われているため、暮らしのスタイルや飾りたい作品の特徴を考えて、最も心地よい形を探していくのがおすすめです。

アクリル板のメリット・デメリット

アクリル板は軽くて割れにくく、安全性が高い点が大きな魅力です。小さなお子さまやペットと暮らしている家庭でも安心して飾りやすく、大きな作品を壁にかける際も不安を減らすことができるでしょう。 またアクリルにはUV吸収剤が入っており、そのままでも多少のUVカット効果が期待できます。

アクリルは加工がしやすく、大型額装や特殊な形状の作品にも対応しやすい素材です。UV吸収剤を通常よりも追加し作品の保存性を高めたり、鑑賞者の姿が映り込むことを抑えたりできるアクリルもあり、飾る場所や目的に合わせてリーズナブルなものから最高級のグレードまで選ぶことができます。立体物を飾るためのアクリルボックスを作ることも可能です。

ただし、アクリルは静電気が発生しやすく、環境によっては埃がつきやすい点に注意が必要です。表面がやわらかく傷がつきやすいため、汚れが気になる場合もやわらかい布で優しく拭く必要があります。

【番外編】アクリルの2つの製造方法、押出・キャスト

アクリルには、製造方法の違いとして押出とキャストの2種類があります。押出板は溶かしたアクリル樹脂をローラーで連続的に押し出して整形されたアクリル板で、キャストアクリルはガラス板の間に液状のアクリル樹脂を流し込んで硬化させることで作られます。

押出板と比べてキャスト板の方が硬度が高いため、反りが出にくいなどの小さなメリットはあります。ですが、最近では押出板の性能が向上しており、額縁のグレージングとしてはクオリティに差が出ることはほとんどありません。基本的にはリーズナブルな押出板をおすすめしています。

PETシートとは

PETシートは薄くて軽い透明なシートで、比較的安価なポスターフレームや家具量販店で購入したフレームに付属しています。

PETシートはアクリルやガラスと比べると光の透過率が非常に低く、作品が暗く見えてしまったり、薄さゆえのたわみが強く出てしまったりと、作品そのものの美しさをそのまま表現することが難しい素材です。PETシートの額縁からオーダー額装に取り替えたいと相談に来られるお客様も多くいらっしゃいます。

とはいえ、非常にリーズナブルに揃えることができるため、イベントでのポスター展示など短期間で大量の額装が必要な場合に活用されることがある表面材です。

額縁・額装グレージングの最高級の選択肢

ひとくくりにグレージングといっても、求める機能や見え方によってさまざまなグレードがあります。種類による違いをおさえておくことで、より作品に溶け込む額装を実現できるでしょう。

ここでは、額装のグレージングとして最高級のガラス板・アクリル板についてご紹介します。

UV70 ガラス板

「UltraVue UV70」は、低反射性能をもつガラス板です。ガラスにARコーティングが施されることで、表面反射を極力抑えられるようになっています。約70%の紫外線を遮断し、作品を保護しながら映り込みも抑えることができるため、作品への集中力を高めることができます。

アクリルではなくガラス板を選びたい場面で、なおかつUVカット性能と低反射性能を求める際に最適な選択肢です。

UV99 アクリル板

ラーソン・ジュール社の「UV99」に代表されるように、紫外線カット性能をもち映り込みも抑えることができるアクリル板があります。

UV99では、作品の鑑賞を妨げる反射を抑えながら紫外線を約99%カットできるほか、帯電防止加工も施されています。フィルム処理が行われておらず傷もつきにくい仕様のため、制作の際も通常のアクリルカッターでカット加工をすることが可能です。

一般的な低反射アクリルとは異なり、作品とアクリルが離れていてもぼやけずクリアな視界を確保することができます。このため、立体物や油絵を額装したい場合にも活用できます。

高いUVカット性能をもつアクリル板は、照明や窓からの光が目立ちやすいリビングや廊下に最適です。光が反射しやすい環境で眺めたいアートや思い出の品があるご家庭には、ぴったりの素材なのではないでしょうか。

ARアクリル|精密な作品には、よりクリアな視覚体験

フクビ化学工業の「ハーツラス」は、AR(アンチリフレクション)コーティングが施されたアクリルです。

樹脂パネルに重ねられた3層のコーティングによって、反射率は極小になり、透過率は高まります。自然光や照明での映り込みがなくなり、作品そのものの存在感を直に感じることができるでしょう。

摩擦や汚れに強く帯電も抑制されているため、お手入れも楽になります。作品をクリアに味わいたい方や、写真や細密画など視覚の透明感を求めたい作品の額装を検討している場合に、選んでいただきたいアクリルです。

MOSMITE貼付アクリル|板の存在を感じない透明感

三菱ケミカルによって開発された「モスマイト」は、アクリル板の両面に貼ることで光の反射を抑えることができるフィルム。表面には蛾の目の構造を模した微細な凹凸が形成されていて、反射を物理的に抑えられるという仕組みです。

反射率は0.1%前後と極小に抑えられ、可視光の透過は99%以上と圧倒的。まるでフロントガラスが取り払われた車で旅しているかのように、作品という風景に没入できる視覚体験となるでしょう。

紫外線や汚れから作品を守りつつ、まるで板などないかのように作品と対面できる。特別な空気感を演出したい別荘の一室や会場など、プレミアムな空間に最適です。

オプティアム・ミュージアム・アクリル|美術館クオリティの不変性

ラーソン・ジュール社の「Optium Museum Acrylic」は、反射防止、UV99%カット、帯電防止、ハードコートの耐傷性能などを兼ね備えたミュージアム仕様のアクリルです。圧倒的な透明度と平面性、軽量かつ割れにくい安全性が特徴で、美術館で採用されるほどのクオリティを誇ります。

いつまでも変わらず眺めたい一生ものの作品や、大切な記念品、貴重な一点ものの作品の保存性を考慮するなら、まさに最高峰といえるアクリル素材。非常に高価ではありますが、その価値に共感された方にとっては十分に見合う選択肢でしょう。

透明なアクリルの窓から、額縁の中の風景を抱く

夕方、部屋がオレンジ色に染まり、壁の額縁がまた異なる表情を見せてくれるでしょう。

作品はその日の天気や時間によって少しずつ色合いを変えていき、日々の中でふと立ち止まるきっかけをくれることも。そしてその環境の変化から大切な作品を守ってくれるのが、作品と私たちを隔てる透明なグレージングです。

額縁に作品をおさめたその瞬間から、暮らしの一部に、ほんの少し立ち止まる空白が生まれる。その透明な窓が、毎日の景色をいっそう豊かにしてくれるでしょう。

額縁専門店 ファブリでは、美術・技術のさまざまな分野から専門スタッフが集い、作品に応じた最適な額装をご提案しています。ぜひ一度、工房に足を運んでみてください。